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​ファイバーレーザーを使用したレーザー透過溶着法
(溶着挙動編)

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協力: パナソニック株式会社 AIS社様(材料提供) 車載用PBT樹脂 MBSシリーズ
パナソニックデバイスSUNX株式会社様(実験協力) ガルバノスキャニング式FAYbレーザー VL-W1シリーズ
■はじめに・・・ 
 レーザー樹脂溶着はLDレーザーの様なトップハット分布なビームを持つレーザーが適していると言われている。
 しかし、ガウシャン分布なビームをもつファイバーレーザーであっても溶着は可能だ。
 集光系であっても平行光であっても溶着は可能である。実際のワーク形状や大きさ、樹脂の種類や求める溶着品質によって選択するのが良い。
 材質や求める品質、レーザーの特性に合った吸収能の最適化や条件設定が重要である。
 指向性の高さやガルバノスキャニングを利用した溶着方法も存在する。
 今回は弊社LAW材料を使用し材料吸収値(発熱量)を材料面からコントロールし、ガルバノ式ファイバーレーザーを使用した溶着事例と活用方法について解説する。
半導体レーザー、ファイバーレーザー
■二種類のエネルギー分布で比較した溶着品質への影響
 ここでは二種類の異なったエネルギー分布をもつ半導体レーザーとファイバーレーザーを使用して解説する。
 両者の原理的な違いに関しては各レーザー関連の資料やメーカーHPにて詳細な解説が記載されているため、本コラムでの説明は省略し、ここではレーザー溶着挙動に影響を与えるエネルギー分布にのみ着目したい。
二種類のエネルギー分布で比較した溶着品質への影響
 左図はトップハット分布と呼ばれる、照射面に対してほぼ均一なエネルギーを照射し、スポット径に対して均一な発熱を引き起こす、例えばLDレーザーはこういった分布を持つ代表的な例である。
​ 対して右図は一般的にGaussian分布と呼ばれる照射面中心部に向かって高エネルギーとなるようなエネルギー勾配を持っているため、スポット径中心部と外縁部では発熱量が異なる。
​ つまり、中心部は外縁部に比べ、より高温となる。例えばファイバーレーザーにこの様なエネルギー分布を持ったレーザーが多い。

 溶着に関するデータを紹介する前にレーザーを操作(走査)する方法について簡単に説明する。
■レーザー走査方法について ~ロボット制御/ガルバノスキャニング~
ロボット制御、ガルバノスキャニング
<画像提供 パナソニック デバイスSUNX株式会社様> 

 上図のようにレーザーの走査は一般的に大きく二つに大別される。
 一つはロボット駆動やステージ駆動などの走査方法であるが、ワークまたはレーザーヘッドを動かしレーザーを操作する方法である。
 この方法はワークやレーザーヘッドの重さ、駆動速度によって、軌跡精度に影響を生じる。ワーク(部品)の角を溶着する場合など、その形状にも依存する。
 LDレーザーなどで多く採用され、通常の走査で安定的な溶着が可能な速度はおよそ100 mm/s程度が限界であると言われている。
 一方でガルバノスキャニングはガルバノミラーを制御しレーザーを反射させることで走査する。
 そのため、軌跡精度に優れ5000 mm/s以上と言った高速走査も可能である。
 ファイバーレーザーなど指向性の高いレーザーに採用される系であるが、複雑形状な部品でも操作が可能であるものの、突起物などが存在すると影の部分のレーザー照射が難しくなる欠点がある。
 これらの詳細についてはレーザー設備メーカーに問い合わせて頂きたい。
 治具設計に於いては成形品のヒケ・反り等の影響も考慮した加圧状態を実現することが非常に重要である。
​ 溶着したい部材同士の間に隙間が生じると、レーザー透過溶着法では熱伝播が行われず、溶着不良を引き起こす。

 次に実際の溶着事例を紹介しよう。
■エネルギー分布や指向性が与える溶着への影響
 LDとファイバーレーザー、トップハット分布とGaussian分布など両者の違いを説明した。
​ ここでは、それらの違いがどのように溶着に影響を与えるのか次のデータを見て頂きたい。

●溶着強度とその安定性
エネルギー分布や指向性が与える溶着への影響
 上にA社PBT樹脂GF30%、吸収材として弊社のeBIND LAW-9810を添加し、LD / FAYb レーザーそれぞれのレーザー波長(940 nm/1070 nm)に対して吸収能を調整した成形板を使用し、レーザーのエネルギー分布の違いが引き起こす溶着挙動の比較を行った一例を示す。
 強度・安定性共にLDとの結果に差が生じた。
 これはガウシャン分布であるFAYbレーザーの発熱挙動が異なっていることを示している。
 中心部と外縁部の温度分布の差により、その両者において良好なエネルギー量が得られる範囲がトップハット分布のレーザーより狭く、強度にバラつきが生じやすくなっているものと考えられる。
 また、中央部の過剰加熱により、樹脂の強度劣化や分解を引き起こし易いために、単位面積当たりの強度である溶着強度もやや低い結果となっている。
 発熱挙動で言えば、トップハット分布のレーザーであっても中央部分の熱量が大きくなるが、エネルギー分布の差によりその度合いも異なることがわかる。
​ この様にLDとFAYbではその溶着挙動に違いがあるため、それぞれにあった溶着方法の選定が肝要である。FAYbに適した溶着方法であると考えられるのが、下に示すマルチスキャン溶着である。
■ガルバノスキャニングによる溶着工法の多様性~熱的挙動を利用した溶着
 ガルバノスキャニングが高速走査が可能であることについては冒頭で説明した。
 また、ファイバーレーザーが持つ中央部分の大きなエネルギーが溶着挙動に影響を与えることについても述べた。
 本項ではガルバノスキャニングの活用方法として、その利点を生かしエネルギー分布による不利な影響を緩和する方法についてご紹介したい。
 その溶着手法に関して、ここでは
マルチスキャンと呼ぶことにする。
​ この方法は一般的な一筆書きに比べ、時間は必要であるが、溶着品質は安定する。
シングルスキャン、マルチスキャン
 上図に例を示した。シングルスキャンとは一回のレーザー照射により溶着を完了する照射方法である。
 対してマルチスキャンは同軌跡で複数回レーザーを高速で照射し何度もレーザーを照射しながら徐々に加熱・溶融・溶着させていく手法だ。
 もちろん、軌跡が円であれば、くるくると円を描くようにレーザーを照射することになり、円を数回重ね書きするようにレーザーを照射する。

さて、このマルチスキャンとシングルスキャンを比較しメリットとして、表にその傾向を纏めてみた。
シングルスキャンとマルチスキャンのメリット
 上表中のビード幅を抑える効果は特にガウシャン分布のレーザー利用時に効果が現れるものと予想できる。
 また、マルチスキャンを活用することでガウシャン分布のエネルギー分布に関連する不利な現象を緩和することが出来る。
 一方、デメリットとして下記の二点が挙げられる。
 一点目はエネルギー効率が悪い、つまりシングルスキャンよりも加工に多少時間が掛ってしまうこと。
 また、熱的因子(樹脂の熱伝導率や治具等の冷却効果、厚み等)の影響が大きいこと、熱因子のコントロールが安定した溶着を実現するに当たって非常に重要である。
シングルスキャン、マルチスキャン溶着界面における溶融プール画像
 次回コラムでは実際の溶着挙動(強度 / 気密性評価)に関するデータを紹介する。

 材料はパナソニック株式会社AIS社 車載用PBT樹脂 MBS230H03L ⇒ 
製品ページへ
 ( 現在、黒 x 黒 溶着を可能にする同PBT樹脂材料としてパナソニック株式会社AIS社様よりレーザー透過黒色PBT樹脂MBS230H93Lが発表されている。)

 レーザー溶着機はパナソニックデバイスSUNX株式会社製 VL-W1 series ⇒ 
製品ページへ
を使用した。上記二社の実験協力の下 取得したデータである。

 ワークは下の写真の様な箱形の成形品を使用し評価を行った。
PBT樹脂の箱形成形品
箱形成形品のeBIND® 着色例 -PBT-
■さいごに
 今回のコラムではトップハット分布とガウシャン分布, ガルバノスキャニングとマルチスキャンなど用途、環境に応じた条件設定がレーザー樹脂溶着での安定生産において重要であることを紹介した。
​ 次回公開予定のコラムでは、レーザー樹脂溶着において非常に重要なテーマである"気密性"の視点よりデータを紹介したいと思います。

■eBIND, LTW, LAWは、オリヱント化学工業株式会社の登録商標です.

 

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